令和5年7月に開催される関西保護部会(病虫獣害研究者の集会)に提出する資料に、京都丹波栗の会員の意見を書きました。
「クリシギゾウムシは氷蔵処理で駆除できるのに、ヨウ化メチルで燻蒸するのは止めて欲しい。毒ガスで燻蒸した栗をブランド指定することは丹波栗のブランドイメージに傷を付ける」と書いたのですが、上司が「クリシギゾウムシは氷蔵処理で駆除できるため、ヨウ化メチルでの燻蒸からの移行を進めて欲しい。農薬で燻蒸した栗をブランド指定することは丹波栗のブランドイメージを低下させる可能性がある」に修正しました。府民の意見を、役人の都合で書き換えるようでは、適切な行政は行えないでしょう。
なぜ、氷蔵処理を推進して脱燻蒸を達成しないのか、資料を元に考察してみました。
丹波栗の一部は、京のブランド産品に指定されています。
京のブランド産品とは、安心・安全と環境に配慮した「京都こだわり生産認証システム」によって生産された農林水産物の中から品質などを厳選したもので、京のふるさと産品協会が認定しています。
京都こだわり生産認証システムの特徴とは、農薬・化学肥料の使用を減らした環境に優しい農法(京都こだわり栽培指針)です。
情報の開示により生産者の顔が見える農作物です。
ならば、「京都こだわり栽培指針」はネットなどで公開すべきなのですが、非公開です。
栗の「こだわり栽培指針」を見たら非公開である理由が理解できます。
栗は無農薬栽培が可能です。京都府森林技術センターでは30年以上、農薬散布はしていません。
京都と兵庫の合同品評会で、2022年に優勝された藤原さんも、農薬散布は一切やっておられません。
なのに、栽培指針では9回の農薬散布を推奨しているのです。
注意事項によると、収穫後の燻蒸処理は9回に含まれてないので、ブランド栗は10回も農薬散布されることになります。
安全基準は満たしているのでしょうが、これほど農薬を使う必要はありません。消費者がこの指針を見たら、栗を買うのを躊躇するでしょう。
注意事項には、他にも気になる記述があります。
休耕田に栗を植えるのは、もっての他です。1mも掘って耕板を壊すと水田には戻せません。栗樹が大きくなると周辺農地の日照条件を悪くします。休耕田に栗を植えても、ほとんどが失敗します。綾部や福知山の由良川沿いの栗園では樹木が生い茂る原野になっています。しかし、栽培指針で休耕田への栗植栽を推奨しているのです。
いったい、どこの素人が、この指針を作ったのでしょう。30年以上も栗の研究をしている私の意見は、かき消されています。
平成29年9月の森林技術センターの会議録にも、不思議なことが書いてあります。
「ヨウ化メチルが販売終了になるので、燻蒸によらない方法が求められている。森林技術センターは氷蔵処理に取り組んでいるが、収穫から販売までに1ヶ月程度のタイムラグが生じるので、生栗販売するJAにとって氷蔵処理は十分でなく、他の方法で補完する必要がある」と書いてあります。
氷蔵処理のメリットは、無農薬で虫が完全に駆除できることだけではありません。糖度が増して美味しくなるし、なにより出荷調整できるのがメリットです。温暖化で栗の収穫期が9月に集中し、需要期の10月中旬には、栗が店頭から消えます。氷蔵処理の最大のメリットは栗を1ヶ月貯蔵できることなのですが、「1ヶ月程度のタイムラグが生じて旬を逃す」と決めつけ、氷蔵処理にはデメリットがあると主張して普及を阻んできたんです。
岐阜県や熊本県などの栗の大産地でも、とっくに燻蒸処理を止めているのに、なぜ、京都府組織は燻蒸処理を続けるのでしょう。
実は、京のふるさと産品協会は、京都府職員の天下り先です。JAが扱う農林産物だけをブランド指定しているようです。
氷蔵処理が普及したらJAに栗を出荷する農家が減り、役人の天下り先である京のふるさと産品協会が困るのでしょう。
しかし、消費者や栽培者を優先すべきです。こんなことを続けていたのでは、いくら優れた研究成果を出しても、農林家に利益がもたらされません。